木材になりたい

ミュージカルの感想と妄想と持論をひたすら垂れ流す

DEAR EVAN HANSEN

 

Dear Evan Hansenは社会不安障害を持つ17歳の少年が主人公の物語だ。

学校には会話する程度の知り合いはいるけれど友達と自信を持って言える相手はいないし、母子家庭のため仕事が忙しい母親も家にはほとんどいない。

そんな孤独な彼は、なんとなく自分が世間と切り離された傍観者のような存在に感じている。
 

 

そんな彼の気持ちを歌った『Weving Through a Window』を聞き、この歌詞を読んだとき、絶対にこの作品は生で見てみたいと思った。

(この作品を知らない人は、ひとまずこの曲だけでもいいから聞いてほしい。)

 

 

彼は木から落ちたことが原因で左手を骨折していて、母親に「友達にギプスにサインしてもらいなよ!」と言われるけれど、ギプスに名前を書いてくれる友達すらいない。

WTaWの、僕が木から落ちた時に音ってしてたのかな。という歌詞がとても切ない。

木から落ちて怪我をしても誰にも気にも留められない、ただただ周りの人を眺めているだけのエヴァン。

 

そんな彼が、同じく学校で浮いているいわゆる問題児のコナー(エヴァンが好意を持っているゾーイの兄)とひょんなことから会話をし、ギプスにサインを書いてもらうことになる。

「これでお互いに友達がいるふりができるな。」と話すコナー。

(ここでも他者からの目線なんですよね。友達がいることというよりも、友達がいるように見えることが重要というか。)

 

エヴァンはセラピーの先生に自分宛に毎日手紙を書く課題を出されていて、その手紙を印刷しているところだったのだけど、その手紙の中にはゾーイに対する想いがつづられていて、それを読んだコナーは手紙を持ったまま怒って出て行ってしまう。

そして、コナーはそのあと自殺をしてしまい、『Dear Evan Hansen』と書かれたエヴァンが自分宛に書いた手紙を、家族はコナーが書いたものと思い、問題児だった自分の息子にも友人がいたのだと勘違いをする。

エヴァンは最初は否定をするけれど、ギプスにもコナーの名前が書かれていて、その否定を家族は信じない。

普段誰からも気付かれず、自分の話に誰一人耳を傾けてもらえないエヴァンが、コナーの両親やずっと好きだったゾーイに注目され話を聞いてもらえる。そして、息子のことを知りたいという母親の気持ちを思ってエヴァンはコナーと親友だったことにし作り物の思い出話をしてしまう。

そしてその話が学校で同級生に興味を持たれ、コナーが忘れられないように立ち上げたプロジェクトでのスピーチがSNSで広まりエヴァンは注目されるようになってくる…。

ゾーイとも恋人同士となることができ、コナーの両親にも本当の息子のように接してもらえるようになり、彼は一時孤独ではなくなる。

そこでめでたしめでたしと終わるわけではなく、最後は紆余曲折を経てコナーの家族に真実を話し彼らの元を去ることになる。

 

 

エヴァンのように社会不安障害を患っていなくても、友達がいても、なんとなく自分の存在意義がわからなくなったり、周りと自分が切り離されているような周りに何も影響を与えていない人間なのではないかと考えたことのある人は少なくないのではないか。

大人になると自分とは関係のない周りの目はあまり気にならなくなったりするけれど、『自分は周りからどう見えるのか。』がとても気になった経験は誰しもあるんじゃないかと思うし、学生の頃なんかは周りからの評価がすべてだと思ってしまったりもする。

 

現代の日本では『インスタ映え』という言葉がとてもよく聞かれる。

インスタグラムで『いいね』をもらえるような写真栄えのするごはんを食べに行ったりきれいな写真がとれる場所に行く人がとても増えているようだ。

何処かに行くことや何かを食べることを目的とし、その目的の一つとしてインスタ映えを目指すならともかく、インスタに写真をあげて『誰かにいいね』と言われることのみを目的として行動し、写真を撮ったあとはろくに味合わずに食べ物を捨ててしまう人もいるとテレビで言っていた。

誰かに認められたいという承認欲求や自分が社会に必要とされていると感じたいという社会欲求と愛の欲求は、マズローの欲求段階でもちょうど中間層とその一つ上に位置しており、人間の基本的欲求として昔から知られているものだ。

その欲求が満たされないと人は不安になったり虚無感を感じたりする。

 だけど作り上げた自分、誰かに見せるため誰かにいいねと言われるための自分を周りに認められて賞賛をうけたとしても、本当の意味での承認欲求は埋まらないのではないかとも思う。

 

またSNSというある程度オープンな場で簡単に他人と繋がれ、他人の生活を垣間見られるようになったからこそ、自分の生活と他人を比較し幸せの判断基準としてしまうことも増えたのではないかと思う。

そしてエヴァンのような他者と繋がりを 持つことに困難を感じる人は、画面に映し出される周りの楽しそうな日常を見て、より孤独を感じたり同じように出来ない自分への焦りを感じやすくなったのではないか。

 

コナーの家族に真実を話して彼らのもとを去った後しばらくして、エヴァンはゾーイと再会を果たす。場所はエヴァンが始めたコナープロジェクトで再建したりんご園で。

 

そのあとエヴァンは自分にこう語りかける「Dear Evan Hansen 今日はいい日になりそう。なぜなら隠れることもなく嘘をつくこともなく、君は君でいられるから。」

 

嘘から始まったこととはいえ、自分自身が周りに影響をあたえて始まったコナープロジェクトで再建したりんご園をみて、そして嘘偽りのない自分でゾーイと話すことができて、彼は自分自身を認めることができたのではないかと思う。

 

誰かの目線で自分の人生を見て、誰かとの比較で人生を評価するとき、いつも幸せでいることはとても難しい。

誰かに評価されることを意識した自分ではなく、そのまま自分自身でいられること、そしてその自分を自分自身が認められること、それこそが本当の幸せではないかと思う。

 

 

この作品はぜひ来日公演できてほしい。

きっと多くの人が共感し、何かを考えるきっかけになる物語だと思うから。

楽曲担当のパセック&ポールはララランドや来年公開予定のグレイテスト・ショーマンの曲も手掛けているし、きっと話題性はあると思うんだよな…。

 

 

ついでに、海外ドラマSMASHの中に出てくるミュージカルHit Listもパッセク&ポールが楽曲提供をしていてとても良い曲が多いのでぜひ見てほしい。

年明けにHit List制作をしているカイル役のアンディ・ミエンタスさんがNew Year コンサート出演のために来日予定だよ!

 

 

台本を見て思い出しながら書いてみたけれど、英語はあまり得意ではないので意味が違っていたらすみません。

細かい楽曲やキャスト語りはまた今度。